映画やコマーシャルなどを制作する際に映像の質を上げたいのであれば色補正やカラーグレーディングをプロダクションに取り入れるのがベストです。
一つのカメラで撮影されていれば色補正もスムーズに終わりますが、REDやBlackmagic Design、ミラーレス機やiPhoneなど違うメーカーのカメラで撮影する場合は編集時に色が統一するように色補正を行います。
3DCG制作においても同じことで、VFXを制作する際は3DCGと実写映像と自然に合成できるように3DCGのシーンと実写側の色を揃える必要があるので、とても時間と労力が掛かってしまいます。
しかし、近年の3DCGソフトウェアやレンダラーではこの色補正を短縮できるACESを取り入れているところも増えており、今回紹介するRedshiftレンダラーでもバージョン3.0.46から実装されるようになり、デフォルトのカラースペースとして設定してあります。
今回の記事ではCinema 4DとRedshiftにおけるACESを使ったワークフローを紹介していきます。
これまでのRedshiftと同じようにACESカラースペースを使わずにプロジェクトをレンダリングしたいという方は「RedshiftのIPR(RenderView)と画像ビューアでのレンダリングで色が違う時の対処法」を読んでみてください。
ACESとは?
こちらの記事でも紹介していますが、Redshiftに実装されたACESとは「Academy Color Encoding System(アカデミー・カラーエンコーディング・システム)」の略したものです。
多くのメーカーから販売されているカメラや映像編集アプリなどデジタルシネマが普及している今では、とにかく様々な種類のフォーマットが用意されており、色補正やグレーディングがより複雑になりつつあります。
色補正やグレーディングをよりシームレスに行うように開発されたのがACESで、このACESはよりRec.709より広いカラースペース(色域)であるのに加えて、色補正をよりスムーズに行えるカラーマネジメントのシステムになっています。
Cinema 4Dなどの3DCGソフトウェアでレンダリングしたものをそのまま利用するのであればACESを使用しなくても良いのですが、実写と組み合わせたり、Photoshopなどを使ってより細かな色補正、グレーディングをしたいと考えている方はACESのカラースペースでレンダリングするのがベストです。
Cinema 4DとRedshiftを使ったACESのワークフロー
最新版のRedshiftを使う場合はACESのカラースペースがデフォルトで適用されていますが、ACESを問題なく利用できるようにプロジェクト、テクスチャ、最終レンダリングでの設定を行う必要があります。
今回のチュートリアルで使うプロジェクトがこちら。プリミティオブジェクトにRedshiftマテリアルと背景とHDRIを兼ねるDome lightを追加したシンプルなものになっています。
上の画像はRedshift RenderViewのIPRを使ってレンダリングしたものです。
特に設定を変更せずにCinema 4Dの画像ビューアを使ってレンダリングしてみるとRedshift RenderViewと同じ結果になりましたが、設定を変更するとRedshift RenderViewと画像ビューアとの色やコントラストのズレ(後述)が発生するので、基本的にRedshift RenderViewで作業することをオススメします。
プロジェクトの設定
Cinema 4Dのレンダリング設定を開き、「保存」の項目を開きます。
「保存」の「ファイル」から保存先を指定し、「フォーマット」を「OpenEXR」、色深度を「32Bit/チャンネル」に変更します。
次に「Redshift」の項目へと移り、「モード: Advanced」になってる上で「Globals」の中にある「Color Management」に移動します。
上のように基本的にデフォルトの設定のままで問題ありませんが、「Compensate for View Transform」のチェックを外しましょう。
この状態でRedshift RenderViewと画像ビューアを使ってレンダリングしてみた結果がこちら。
RederViewの方では変化がありませんが、画像ビューアだとコントラストと色味が変わってしまいました。結果が違うのでびっくりしてしまいますが、After Effectsに読み込むと元の色に戻るので大丈夫です。
前の項目でも書きましたが、Cinema 4Dでシーンの確認を行う場合であればRenderViewで行うようにしてください。
マテリアルの設定
JPEG/PNG形式のテクスチャを使用しているマテリアルは、テクスチャのカラースペースが正しく設定してあるか確認する必要があります。
Redshiftは非常に賢いので、画像テクスチャを自動判別してカラースペースを設定する「Auto(オート)」の機能がありますが、使用するファイルによっては上手く行かないこともあるので、色合いがおかしいなどの現象が発生した場合はテクスチャの設定を確認しておきましょう。
また使用するテクスチャによって適用するカラースペースが異なります。Diffuseなどの色情報があるものは「sRGB」、RoughnessやDisplacementなどは「Raw」、HDRIは「scene-linear Rec.709-sRGB」に設定します。
RS Material
マテリアルマネージャからRS Materialをダブルクリックしてシェーダーグラフを開きます。
画像テクスチャのあるノードを選択すると右側のオプションが現れるので、「Color Space」をクリックします。
「file-io」からテクスチャに合わせて「Raw」または「sRGB」を選択します。
RS Dome Light
HDRIを適用したRS Dome Lightをオブジェクトマネージャから選択し、属性マネージャの「Object」の中にある「Texture」の三角アイコンをクリックします。
「Color Space」という項目が現れるので、必要に応じて変更してください。今回のHDRIの場合は「file-io」の中にある「scene-linear Rec.709-sRGB」にしましょう。
最終レンダリング
シーンが完成したら画像ビューアを使って最終レンダリングを行いましょう。レンダリングを行う前にレンダリング設定を行う必要があります。
レンダリング設定を開き、Redshiftの「Globals」の「Color Management」内の「View」をクリックし、「Raw」を選択しましょう。
レンダリング設定を閉じて画像ビューアを使ってレンダリングを行い、OpenEXR形式のファイルとして保存します。
After Effectsに読み込む
ACES形式のファイルをAdobe After Effectsに読み込むには「OpenColorIO(OCIO)」というプラグインが必要になります。
OCIOのインストール方法とクリップをACESからsRGBに変換する方法については「ACESカラースペースのクリップをAeに読み込むOCIOの追加と使い方」の記事に詳しく紹介しているので、合わせてチェックしてみてください。
ACESのカラースペースでRedshiftのRenderViewでレンダリングしたものとAfter EffectsでsRGB形式にしたものがこちら。無事にRenderViewと同じ色味になっていますね。
ACESは今回の記事のように様々な設定が必要になるので面倒ではありますが、sRGBに比べるとより広いカラースペース(色域)になっているので、より複雑な色補正やカラーグレーディングに適しています。
レンダリングしたシーンをPhotoshopやAfter Effectsなどに送って合成やより細かい色補正を行いたい場合にはACESを、Cinema 4Dで完結させたい場合はリニアワークフローにするなど必要に応じてカラースペースを切り替えてみてください。
(MIKIO)
Additional Photos: Jakob Owens